2017年8月4日金曜日

Y

家に帰って郵便受けを開けると、
ごちゃごちゃになったチラシやDMの底に1枚の封筒があった。
神経質そうに丁寧に楷書で書かれた宛名の裏をめくると、
そこにはYの父親の名前があった。

嫌な予感がした。

10代になってすぐの頃、引っ越し先の隣に住んでいたのがYだった。
転校したばかりで勝手のわからない 私を、山へ海へと次々に連れ出した。
春はタケノコやタランボ。
夏はウニにアワビにウミタナゴ。
秋はヤマブドウやコクワ。
冬は裏山でスキー。
土地で話されている言葉もよく聞き取れなかった私が、
1年も経つ頃には多くの友達とコミュニケーションが取れるようになっていた。

高校からは別々の道に進んだものの、Yとの交遊はその後も続いた。
私の家に突然やってきて、ゴルフの打ちっぱなしにまっすぐ向かったこともあった。
玄関先でそのまま長話に興ずることも多かった。

思い返すと、私の方から連絡を取ることはほとんどなかった。
連絡をよこすのも、家にやってくるのもいつもYの方からだった。

そんなYから何も言ってこなくなったのはいつからだったろうか。
生活が困窮していたらしいことは、それまでの話しぶりでわかっていた。
最後に会ったときは体がつらそうだった。
何もしてやらなかったわけではないが、積極的に手を差し伸べることもしなかった。

Yの父親からの封筒が届いたのは、
もしかしたらもう連絡をよこす気がないのかな、と思い始めた矢先のことだった。

嫌な予感は的中した。
Yの訃報だった。